「・・ま・・・様・・・志貴様」

「ん??・・・」

誰かが俺を呼ぶ。

眼を開けると翡翠がいる。

ああ、いつもの風景だ。

「ああ・・・翡翠おはよう」

「は、はい・・・おはようございます」

「あれ?でも良く俺がここにいる事が」

「レン様が教えてくださりましたので・・・」

「今何時?」

「朝の七時でございます」

「そうか・・・皆の様子は?」

「えっ?そ、それは・・・」

「いや、そこまでで良い。大体判ったから」

まだ引き摺っているか・・・仕方ないだろうな・・・翡翠も身体を小刻みに震えさせているし・・・

「さてと・・・先に居間に行っていて良い。少し考え事したいから」

「で、ですが・・・」

「頼む。十分位したら行くから」

「・・・畏まりました」

そう言って翡翠は一礼して離れを後にする。

翡翠が立ち去った後、俺は静かに禅を組む。

「・・・もうすぐか・・・」

それだけ呟き俺は静かに立ち上がった。







居間に俺が姿を現した瞬間空気が緊張する。

「皆ただいま。それにおはよう」

俺の声にも全員どう返して良いのか判らず顔を見合わせる。

しかし、俺はそれに構う事無く、静かに言葉を繋ぐ。

「琥珀さん、朝飯は?」

「えっ?あ、ああはいはい、少々お待ち下さい志貴さん」

そう言って大急ぎで厨房に向かう琥珀さん。

俺は静かにソファーに腰掛ける。

そして紅茶を注ごうとした沙貴に

「沙貴すまないがコーヒーを入れてくれないか?」

「はい兄様」

慌てて豆から挽きだす沙貴。

その間も皆沈黙をただひたすら守っていた。

「秋葉」

「!!は、はいっ!!」

俺が何気無く呼んだ秋葉は叱られるとでも思ったのが全身を竦ませる。

「留守中、時南の爺さん来なかったか?」

「??い、いえ・・・翡翠」

「いえ、時南様は志貴様の外出中一度も・・・」

「そうか・・・」

やはりあれの用意は少し手間取るか・・・

「ど、どうぞ兄様・・・」

そこへ沙貴がコーヒーを差し出す。

それをブラックのまま一口飲む。

「ふう・・・美味い」

「あ、ありがとうございます・・・」

ぎこちないがそれでも笑顔を見せる。

「し、志貴さん、朝ご飯出来ましたよ」

「ああ、ありがとう琥珀さん。皆すまないけど少し話が待っていてもらえないか?」

俺の問い掛けに全員静かに肯くだけだった。

妙に緊張した朝食も終わり居間に戻った俺は開口一番で

「さてと・・・皆今夜全員で食事に出掛けないか?俺のおごりで」

「「「「「「「ええっ??」」」」」」」

全員が眼を丸くする。

「ほら、遺産も皆のおかげで全て滅ぼす事が出来たからそれに対してのお礼代わりさ」

全員そわそわと視線を交し合う。

そんな中レンだけがちょこんと俺の膝の上に乗っかりうきうきした表情で尋ねてくる。

(ケーキ食べて良いの?)

「ああ、好きなだけ良いぞ」

俺の言葉に心底嬉しそうに肯く。

静かに頭を撫でる。

「皆はどうだい??」

「う、うん・・・」

「そ、そうですね・・・」

「まあ・・・兄さんがそこまで言うのでしたら」

俺の問い掛けにようやく肯く。

「じゃあ決まりだ。それじゃあ・・・夕方に玄関に集合ということで」

そう言うと、全員の返事を待つ事無く居間を後にした。







部屋に戻り早速した事は『凶神』の手入れをすることだった。

静かに手入れを施し、『古夜』にも同様に手入れを行う。

「最後の晩餐か・・・」

不意に飛び出た言葉に苦笑する。

まだ死ぬと決まった訳ではないと言うのに随分と気が早い事だ・・・

俺に自殺願望は無い。

必ず生き残る・・・







『七夜』が意識を取り戻した時、沙夜がいた。

何時の間にか移されたのかそこは彼の寝室だった。

「兄君様。お気づきになられましたか?」

「沙夜・・・ここは?いやそれよりも父上は?」

「お義父上様は・・・」

言いずらそうにしていたがそれで全てを悟った。

「そうか・・・それで『凶夜』は?あいつはどうした?」

「お義父上様を殺めた後里から逃走を・・・未だに見付かっておりません」

「そうか・・・それと紅月達は無事か?」

「はい・・・全員無事です」

「そうか・・・なら良い。沙夜」

「はい」

「お前は紅月らと共に里の者の手当てに当たってくれ。それと『天竜』を」

「兄君様??何を」

「決まっていよう。あいつを討つ」

『七夜』の宣言に沙夜は顔面蒼白としながらも彼に縋って引き止めようとする。

「!!い、いけません!!もう『凶夜』の兄上は正気を失っています。今向かえば兄君様は」

「それでも・・・いや、それだからこそ俺は向かうのさ。今、あいつを食い止められるのは俺だけだ。それに出来の悪い弟を強引にでも引き戻さないとならないからな」

「だ、駄目!!兄君様!!行かせない!!」

「・・・」

やや困惑したように首を傾げるが、暫くしてひとつ肯く。

そして、

「悪い」

静かに鳩尾を軽く突く。

「えっ?・・・兄・・」

力なく倒れ付す。

気を失ったようだ。

それから静かに床に就かせると『天竜』を片手に外の闇に消えていった。







共に同じ血を受け継いだ為なのか『七夜』には『凶夜』の居場所が手に取るようにわかる。

僅か数刻後、『七夜』と『凶夜』は里からやや離れた夜の森で相対していた。

「・・・あ、兄者・・・」

「やれやれ、やっと見つけたぞ『凶夜』。お前は昔からそうだったな。遊び呆けて何時の間にか俺からもはぐれるんだからな」

いつもと変らぬ口調で弟に話しかける。

だが、

「・・・俺は・・・違う・・・」

「・・・『凶夜』??」

「俺こそが・・・最凶・・・兄者ではない・・・」

力を発動したかのように猛烈な瘴気が辺りを覆う。

「どうした?」

「・・・兄者・・・逃げろ・・・もう一人の俺は兄者の力が目的・・・」

「俺の?」

「・・・そうだ・・・兄者の力は天より授けられた支配の力・・・兄者では無い・・・俺が持つに相応しい・・・」

「馬鹿な。この力はお前のような者が容易く持てるものではない」

本能的に弟が変った事を自覚したのか、口調が変る。

「何を言うか・・・俺は万物の力をもねじ伏せられる。貴様など敵ではない」

「・・・これが弟の体の内に潜んでいた悪魔か」

「ははは・・・そしてわが身はお前の言う弟と同じただ表裏であると言うだけ。つまりは俺もまたお前の弟」

「・・・まあ良い、どちらにしろどちらが生き残るかだからな」

「ほざけ・・・貴様に俺が殺せると言うのか?」

「ではやってみようか・・・」

不敵な笑みを浮かべ『天竜』を構える。

「いいだろう・・・俺こそが貴様を上回る事をその身に教え込んでやる」

そして、悲痛な決闘が幕を開けた。







死闘は夜を徹して行われた。

周囲の地形は一変している。

それはまさしく戦場。

木々は焼き尽くされ、地面は抉られ火は燻り続けている。

そんな中、

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

そこには『天竜』を杖にしてようやく立っていた『七夜』と、

「はあああ・・・はああああ・・・」

地面に倒れ付した『凶夜』がいた。

双方とも胸の部分に夥しい出血をしている。

最後の一撃が互いに寸分の狂い無く胸を貫いたからだ。

間違いの無い致命傷である筈だったが・・・

無言で『七夜』は虹の光彩を放つ眼を傷口に向ける。

それから傷を軽く突く。

その瞬間、傷は消えた。

微かな痕だけを残して、傷の存在は消えた。

同じ様に弟の傷を消し去ると静かに抱えあげる。

「・・・『凶夜』、行くぞ」

「あ、兄者・・・駄目だ・・・俺を殺せ・・・出なければ・・・」

「お前は殺さん」

それだけしか言わなかった。

殺せる訳が無かった。

今日まで共に生きてきたたった一人の肉親を。

甘いかもしれない。

将来おぞましい禍根を残すかもしれない。

それでも彼には弟を殺せなかった。

彼は静かに里の近くにある洞窟に向かうと最奥の壁に弟を括りつけると、あらかじめ用意させた封印の布を、頭部、胸部、左右の手首、両足首、腰部、合計六ヶ所に巻きつける。

その体勢はまさしく十字架だった。

「な、何を・・・」

「お前をここに封印する。そしてその鍵をお前の持つ六つの力に込めてお前から解き放つ」

「殺せ、殺してくれ・・・出なければ」

「その力が万が一にも崩壊した時封印の鍵は解放される。そしてお前が解き放たれた時こそ輪廻の果てから訪れる終焉の時」

「だ、駄目だ・・・」

「・・・その時に会おう・・・我が弟よ」







それからの三日近く俺は彼女達の為に過ごした。

アルクェイドと久しぶりに外に出たかと思えば、先輩のカレー店の梯子に付き合い、秋葉と居間でゆっくりとお茶に付き合い、翡翠と琥珀さんの三人でのんびりと過ごしシオンの研究に力不足ながら手伝い、レンの日向ぼっこに飽きるまで一緒に行い、沙貴を寄り添わせて彼女の思うがままに甘えさせる。

そして屋敷に戻ってから四日目の夕方・・・夕食前にそれを感じた。

「奴が・・・復活近い」

俺は静かに服を着替える。

それは時南の爺さんに頼んだ衣服一式で、繊維を退魔の祝詞と抗魔術の呪詛で共に編まれた品だ。

並みの魔術や法術更にはそんじょそこ等の死者や死徒などでは着ている者に傷などつかない。

服を着てから俺は黒のロングコートを羽織る。

服と同じく退魔の祝詞と抗魔術の呪詛を編みこみ更には防弾チョッキにも使われる特殊繊維を随所にあわせて編みこんだ特注製だ。

それから『凶神』を腰に刺し、内ポケットには『古夜』を忍ばせる。

それから引き出しから一通の封書を取り出す。

これは屋敷に帰ってきてから直ぐにしたためたもので、ここに全てを書いておいた。

多分怒るだろう。

何で教えてくれなかったのかと罵られるだろうな。

その様を予想して微笑む。

可笑しなものだ。

今まではなるべくなら見たくないものだったというのに・・・今はもう一度でも良いから見たい。

生き残れるかどうかも判らないがそれでも・・・また見たい。

皆の顔を。

密かに用意したやはり黒のブーツを履くと窓から飛び降りようとする。

しかし、その時一階から秋葉達の怒鳴り声が聞こえてきた。

「?なんだ??」

聞き耳を立てていると誰か来たようだ。

それも・・・

「先生??」







時をやや戻す。

「秋葉様・・・お客様です」

「誰なの?」

「は〜い。妹さんお久しぶり」

「「「ブルー!!」」」

「青子先生」

その姿を認めてアルクェイド・シエル・シオンそして沙貴が声を上げる。

そこにいたのは紛れも無い『ミスブルー』蒼崎青子だった。

「元気そうで何よりね沙貴。志貴と一緒にいられて嬉しそうね」

「・・・はい」

「それよりもいったい何の用なの?ここに」

「ええ・・・ちょっと志貴にね」

「志貴に?」

「ええ、少し向こうで志貴が話題に上がっているのよ」

「そんなのいつもの事でしょう??」

何でも無い様にアルクェイドが言う。

事実、志貴の事は絶えず魔術教会・聖堂教会において重要課題だった。

「今までとは桁が違う騒動になっているのよ」

だが、青子の表情は心無しか暗い。

「どう言う事よ」

教会と協会、双方で志貴の抹殺が決定されたわ

彼女達にとって一大事極まりない事をさらりと口にした。

彼女にしてみれば事実を回りくどく言うつもりなどなかった。

しかし、何の心構えが出来ていない者にはそれは死刑宣告に等しかった。

その瞬間空気が凍てついた。

全員声も出ない。

「簡単に言うとね・・・」

「ふ、ふざけんじゃないわよ!!」

青子の声を掻き消すように秋葉の怒号が木霊する。

「あ、青子先生!!どう言う事ですか!!どうして兄様が」

「落ち着きなさい、それは・・・志貴に聞いた方が良さそうよ。ねえ志貴」

「はい」

志貴が姿を現した。

黒一式の服装で・・・







先生は俺が現れた事にさして驚いていなかった。

「暫くぶりです」

「ええ、元気そうで何よりね・・・最もこんな形で会いたくなかったけど」

「まったくです」

あえておどけるように同意する。

「先生やはりきっかけは一週間前の」

「ええそうよ」

「どうやって知ったのか・・・あの時は紫影の結界で入れなかったんじゃなかったのか?」

「志貴、君は気付いていないでしょうけど周囲には使い魔が常に監視しているのよ」

「それはまたご丁寧な・・・」

嘆息する。

「連中さぞかし驚いたでしょうね」

「そりゃあね」

世間話と大差の無い自然な口ぶりにようやくフリーズしていた皆が動き出した。

「し、志貴!!どう言う事よ!!」

「そうだな・・・」

言うべきかどうか迷うが仕方が無いだろう。

「簡単に言ってしまえばもう俺は人間の範疇超えたと言ってしまえばいいか」

「今までもそうだったじゃ無いですか!」

「それすら凌駕している」

「どう言う事ですか?」

「アルクェイド・シオン、覚えているか?紫影との戦いの時お前達の吸血衝動が消えた事を」

二人とも肯く。

「で、でもあれって志貴が殺したんでしょう?」

「私と真祖の吸血衝動を・・・」

「正確には違う。俺はあの時二人の吸血衝動を消した」

「へ?それって・・・」

「お姫様、志貴は吸血衝動を殺していないわ。そもそも吸血衝動を無いものにしたのよ」

全員が沈黙する。

意味がわからないようだ。

無理も無い。

「無いものに・・・ってどう言う事?」

「そうだな・・・俺の中にある無の極み・・・『極無』。全ての存在を支配し消し去る・・・」

これこそが『極死』の本来の名。

全ての存在をゼロに帰する究極の死・・・いや、無。

「全ての存在・・・」

「そうだ。今の俺は何でも消せる。人も物も・・・やろうと思えば時も・・・更には『死の概念』すらも」

「・・・いわば死徒達の追い求める『不老不死』、これに対する究極の回答論ね。つまり人や死徒・・・ありとあらゆる生命が生きながらにして背負う事を宿命付けられる『死』。これを消し去る・・・死から逃れる事が出来ればそれは不老不死だから。志貴、君はそれをも消し去れるのね」

「そうです。『死の概念』や時に比べれば吸血衝動は児戯と同じですから・・・さぞかし驚いたでしょうね」

「当然よ。君は簡単に言うけどこれはもう魔法と呼びうる範囲の問題よ」

「いや、魔法以上でしょう」

不意に先生の表情が曇る。

「志貴、焦らないのね。間も無く教会と協会のハンターが君の始末に訪れる」

「わかっていますよ。そして先生は足止めでここに」

「ええ。ここまで平静だと逆にむかつくけど・・・」

「仕方ありません。俺は十一年前死んでいたんです。そして何時死んでもおかしく無いこの身体と折り合いつけて生きてきました。今更生きる事に・・・生き続ける事に執着はありません」

俺の全てを悟りきった台詞に先生の表情が歪む。

それは怒りであるのだろうか?

見れば後ろの皆の表情も一様に曇る。

「・・・志貴・・・あの時君に『真っ直ぐに育ちなさい』と教えたけど・・・今日ほどこれを悔やんだ事は無いわ。君はもっとずるく立ち回るべきだったのよ」

「そんな事はありません。俺は結構自分本位で今日まで生きてきました。先生には感謝の言葉すら見当たりません。それに、俺はまだ死ぬ気はありませんし」

「志貴??」

「俺にはまだやる事があります。ですがその前に・・・先生。ずっと借りっ放しで申し訳ありませんでした。今・・・これをお返しします」

そう言うと、俺は掛けていた眼鏡を外し先生に返す。

「志貴・・・これは君の物よ。他の誰の物でもない。返される筋合いは無いわ」

それを先生は直ぐに押し返す。

「そうは言われても・・・もう俺には無用の物ですので」

そう言ってから先生に眼鏡を強引に押し付けると、直ぐに行動に移る。

「すまん!!少し出て来る!!!」

まるで近所に出かける様な口調で俺は皆に別れを告げる。

軽く先生を飛び越すと窓ガラスを蹴り破り中庭に降り立つ。

そして直ぐに走り出す。

その途端何処から現れたのか複数の人影が俺に攻撃を叩き込む。

魔力弾であったり黒鍵であったり更には俺に近接戦を挑みかかる者もいた。

「まったく・・・たった一人に大袈裟な」

俺は静かに溜息をつく。

それをことごとく弾き飛ばしかわし受け流し一息に屋敷を後にした。

目指すは『七夜の里』、そして『七夜聖堂』。

全ての始まりにして終着の地・・・そして遥か遠き過去に約束された決着の場所・・・







後は全て見た事、知った事だった。

『凶夜』を封印した後『七夜』は『八妃』とそれぞれ子を成したがそれから暫くして、かの決闘で受けた最後の傷が元で死去した。

『極無』では傷は消せても治癒することは出来なかった。

あくまでも『消した』に過ぎず『治す』訳ではないのだから。

その死去寸前彼は『八妃』に遺言を残す。

『時が過ぎ去り悠久の果てにて俺と『凶夜』の決着が付くだろう。その時まで一族の血を純血のまま保たせよ。俺の力と意思を受け継いだ者は必ず現れる。その証はこの傷跡。そして仮に子孫に弟の力を受け継ぐ者が現れた時これを冷遇するな・・・とは言えそれは無理だろうな・・・人は臆病だから・・・最後にお前達を今日より自由に処す』

『八妃』は悲観にくれ、ばらばらに散った。

『八妃』を繋ぎ止めていたのはあくまでも『七夜』だったからに過ぎない。

そして、後に『八妃』の一人は自らの血を限りなく純血に保つ為あえて一族での・・・近親での婚姻を繰り返す。

遠い未来・・・それこそ何の為に純血を保つのかも判らないほど遥かな悠久の果ての未来に待ち受ける彼らの贖罪の為に、血を残す。

この瞬間こそが、異形の退魔一族『七夜』の誕生であった。

そして封印された『凶夜』もまた時を過ごす。

しかし、『凶夜』の脅威と恐怖の記憶だけは世代を経ても時が経とうとも褪せる事無く、七夜の中で恐れさせる。

その結果待ち受けていたのは『七夜』の推察通り『凶夜』・・・いや、『凶夜』と思われる同族に対する異常なまでの迫害だった。

あれほど『七夜』が遺言で警告したのだが結果は同じであった。

更に救い難い事に・・・実際にはその大半は『凶夜』ではなかった。

真実・・・『凶夜』と呼ばれるに相応しいのは僅かに七人・・・七夜乱蒼・七夜風鐘・七夜籠庵・七夜紅玉・七夜青玉・七夜幻陶・七夜紫影・・・彼ら、『凶夜』の封印する鍵を秘めた力『六封』を持つ者達だけだったから・・・

しかし、彼らとて『選ばれた』のではない。

『凶夜』が彼らを偶々『選んだ』に過ぎなかった・・・

そう・・・『凶夜』の真の目的・・・『直死』と『極無』を『七夜』・・・いや、『七夜志貴』より奪い取らんが為の尖兵とする為に・・・

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